遊星からの物体X ファーストコンタクト ◆ The Thing [いんぷれっしょん]
邦題から一目瞭然、1982年ジョン・カーペンター監督作『遊星からの物体X』の前日談を描いたSFホラー。30年を経たあの名作が、どのようにアレンジされるのか非常に楽しみだった。 結論、ポジティブ評価とネガティブ評価が半々という、微妙な感想だった。
予告等で既に解っているとおり、前作の3日前の設定。南極ノルウェー基地で起きた「あれ」と人間との最初の遭遇と戦いを描いたものだ。 隊員達の衣装や基地建築物、乗り物などの装備品などすべて前作設定が忠実に再現されていて、まるでタイムトリップをしたかのような気分になる。あまり時間を経ていない少し前の歴史は、体感した記憶をリアルに掘り起こしてくれるので、共感を呼ぶには抜群だ。 日本の昭和ブームも、この辺の心理を突いているのかも。
この作品最大の見所のひとつ、外宇宙からやってきた「あれ」の造形と動きは、30年の長きにわたる映像技術進歩で飛躍的に凄くなっている。地球上のどんな生物にも似せないで作られたという超オリジナルな生き物が、更にパワーアップして襲ってくる様は、黙ってひれ伏す以外にはございません。 CGの進歩で、あらゆる映像体験が可能になったと言ってもいい昨今においても、おぞましさにおいては、まだまだ横綱級を保っていると高評価できる。中でも、前作では描ききれなかった、二人の人間がじわじわと溶け合っていくギミックはお見事だ。
そして、もう一方の見所、ついさっきまで仲間だった基地のメンバーの中で、誰が既に「あれ」に入れ替わっているのかという、お互いの疑心暗鬼を描く心理サスペンスの妙も、相変わらずだ。基地の隊員に加えて、調査のため急遽加わった外国人が混ざっている設定も、もう一枚深さが加味されている。本作主役のアメリカン人女性生物学者が発見した、簡易に人間と元人間を見分ける方法を実行するシークエンスは、安っぽいスリラーよりハラハラする。
しかし、しかし、なのだ。これらの見所・面白さは、前作で既に見たアイデアだ。私が期待していたのは、もう少し「あれ」の正体に踏み込むストーリーとか、コンセプトを維持したままの、少し方向を変えた恐怖とか、そういったものだったのだ。 確かに、終盤近く宇宙船内での攻防などは、そのあたりを臭わせるものではあったけれど、いささか期待外れの感は否めない。それは過度な期待なんだろうか?
予想と少し違うエンディングと思っていたら、エンドロールに絡めたエピローグで、きちんと前作への橋渡しがされるという、オールドファン納得のオマケが付いているところには、作り手の配慮がはっきり現れている。だとしたら、既に前作の恐怖や驚きを知っている者として感じた物足りなさ感は、そんなに的外れではないと思うのだがいかがだろうか?
2012/08/09 TOHOシネマズららぽーと横浜にて
ややB級の香りも味わい。
オリジナルのメガホンを取ったジョン・カーペンター監督作品。
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