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100000年後の安全 ◆ INTO ETERNITY [いんぷれっしょん]

100000.jpgこの秋公開予定だったという作品が前倒しで上映された。言わずもがな、福島第1原子力発電所の惨状を知ることで、核への感心が急速に高まったからだ。

 この映画が描くテーマは原子力発電所の抱える、最大にして未だ解決を見ない問題「高レベル放射性廃棄物の最終処理」について扱っている。原子力エネルギーの利用が「トイレのないマンション」にたとえられる所以だ。

結論から先に述べると、問題提起型のドキュメンタリー作品としては少しもの足りない。推進派反対派双方の論客達によって、常に議論されている原発問題は、多少でも関心のある者にとってはそのエッセンスはよく知られているので、廃棄物の問題のみでひとつのストーリーを組むにはやや弱いと思う。

つまり、見えない放射線は人体に有害で危険→原発の運転には放射性物質が必要→発電に使われた使用済み核燃料や放射線に汚染された施設などは核廃棄物となる→それらの放射線は長期に渡り消えない→だから長く保管せねばならない こういうことだ。(科学に詳しくないので用語の使い方等間違っていたらスミマセン) 既によく知られたこのことを映像表現で伝えようとしたのが本作であるなら、すこしマイルド過ぎるかもしれない。 そして、決定的なのは、ここで扱う施設が未完成で、その全容が映像には出てこないことでビジュアルの力が生かされているとは言い難いことか。登場人物を関係者に限定し、はっきりとした立場表明をしない製作スタイルは、制作者の良心かもしれない。しかし、今現在、フクシマで放射線がまき散らされている原発事故を前にして本作を見るには、作り手の意図が仇になっている感が否めない。

舞台はフィンランド。オンカロ最終処理施設という、2012年世界で初めて稼働予定の建設中施設にカメラが入って行くところから始まる。この施設は数億年前から安定しているという深い地層に作られ、その深度は500mに及ぶという。納められた廃棄物は数十年間管理された後、トンネルなどの構造物を含め、完全に埋め戻されるのだそうだ。日本語タイトルになっている「10万年後の安全」とは、この施設に埋設される核の廃棄物が、どれくらいの期間人間社会から隔離される必要があるかということを表している。

10万年前とは、人類の祖先ネアンデルタール人が地球上に現れた頃だとか。わかりやすい比較で言えば、国内で最も旧い土器が出土している縄文時代が約1万6000年前で、石造りの建築物としては古代ギリシャ時代の神殿などが有名で2500年くらい前のものだとか。人類が文明らしいものを築きはじめてからの時間は、この10万年という歳月の前にはほとんど一瞬にしか見えない。

やがて作品のトーンは変化してくる。10万年後の人類に、この危険な埋蔵物のことをどのように伝えるか、そもそもその頃にどのような文明が存在するのか。予想ができないから石碑を建てて、警告文を6カ国語で書こう。言語は通じるのか?じゃ、危険を連想させる針山の絵を描こう。しかし、危険と書いても、現代の考古学者が過去のそれを無視したように、未来の人類も無視するかもしれない・・・等々ほとんどジョークに近いとも思われるやりが、科学者や企業のトップなどの口から聞かれる。つまり、圧倒的長さの時間の前に、この作業は科学の手を離れ、もはや哲として扱うべき領分なのではと思えるほどだ。

後生の人類に対して、危険性の伝達が不可欠という立場、逆に存在そのものを忘れ去ってしまうほうがより安全かもしれないという立場、両論があり、どちらを取るかも含め施設に対する法律的な位置づけもこれからの課題であるらしい。 「忘れることを忘れてはいけない」禅問答のようなつぶやきがナレーションを通して聞こえる。

かようにやっかいな廃棄物は、既に世界中に25万トン以上蓄積されているという。

人類が手にした究極の火、原子力を利用した発電については多様な問題が多く存在し、この廃棄物問題は冒頭に書いたようにごく一部だ。科学的な側面、経済的な側面、社会的側面。政治的な側面、人道的な側面等々、あらゆる方向から詳しく見て行く必要があるだろう。今まで、身近な核、原子力発電について受益者としてのみかかわってきた我々市民も、こんなドキュメンタリー映像を目にすることで後生への責任という視点から、その意識が変わるのであれば一定の意義があるのかもしれない。


2011/04/21 横浜ニューテアトルにて

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inuneko

捨て方が見つからないうちは実用化しちゃいけませんよね。常識として。
by inuneko (2011-05-05 22:27) 

たんたんたぬき

INUNEKOさんコメントありがとうございます。常識です。
そして、早くも電気料金値上げのニュースが流れてきましたが、フクシマはもちろん、これから続々と寿命を迎える炉の廃棄費用は誰の負担なんでしょうね。
by たんたんたぬき (2011-05-07 13:25) 

asa

声高でなく、じっくり考えさせる映画だと思いました。
10万年前の人類は言語をもたなかったわけで、そうすると10万年後の人類に「ここを掘るな」と伝えるのは至難の業だと思いますね。
by asa (2011-07-03 22:46) 

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