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英国王のスピーチ ◆ King's speech [いんぷれっしょん]

kingsspeech.jpg本年度オスカーの主要部門を独占した話題作は、身分を超えた友情を基軸にした心温まる作品だった。
人には誰でも得手不得手がある。苦手なことはなるべく避けて通りたいと思うのは誰でも同じだ。しかし、長い人生を歩む間にはそれが職業上避けて通れないことであれば、否が応でも対峙せねばならない場面もある。本作の主人公、第2次大戦前に即位した、後の英国王ジョージ6世ヨーク公アルバート王子は、そんな誰でもが抱える悩みを体現した人物として描かれる。

吃音症(どもり)に悩み、人前で話すことを苦手とする彼だが、王室に生まれた以上大衆を前にスピーチをせねばならない機会が多い。威厳のある言葉を待つ人々の前で描かれるダメダメスピーチはシーンは、その期待を打ち砕くばかりか、哀れみや同情さえも抱いてしまう。

やがて登場するもう一人の主役。英国連邦オーストラリア出身の言語療法士ライオネルが、まだ素性を明かさず始めて治療に訪れた彼に「スピーチが苦手なら転職すればどうか?」と問うシーンは、他の場面でも随所に見られる英国独特の上質なユーモアが滲むワンシーンだ。
「できることならそうしたいよ!」苦手な仕事に直面している方々には強い共感を抱かせる良いセリフだが、誰しも嫌いなことを割けて転職ばかりしていては、一生自分探しの旅を続けねばならず、大人としてまともな人生を送ることは難しい。だからこそ苦手を克服しようと多くの人がもがき、自己啓発に取り組み、家族や何より自分自身のために頑張るのだが、王子として生まれ、進むべき道を決められた人物が、我々と同じように悩む姿は、その弱さを前面に押し出すことで人間としての親近感を呼び起こす。

皮肉に対比されるのが療法士ライオネルだ。芝居好きで、主役としてスポットライトを浴びる舞台に立つことを願うが、植民地出身という偏見で見られ、シェークスピアのセリフを正しく発音できないという理由から、何度オーディションに挑んでもそれが叶わない。旧い価値観に縛られる時代に生きた人物のもう一方の哀れだ。
「王冠を賭けた恋」で知られる兄の退位という、思いがけない流れにより、国王になることを余儀なくされた彼が、やがて訪れる戦争という国難を前に、その努めを果たすべくライオネルと共に身分を越え、手を携えながら苦手克服に立ち向かう姿は感動を呼ぶ。
そして、忘れてはならないのは、英国民から広く愛されたという王妃エリザベスだ。夫婦としては生涯変わらない愛情で結ばれ、優雅で大らかな人物として記憶に刻まれたという女性を、魅力的な人物として傍らに配置したことで、王子から王へと上っていった主役が、より立って見える。

後に「善良王」と呼ばれ、誠実な人柄から国民の精神的支柱であり続けた人物の、その背景にあった見えざる努力を知ることで今に生きる私達も、困難に立ち向かう勇気や元気をもらえる。そして、エンドロールで流れる「一生のよき友人であった」というその後の二人についての一言も、深い感動を呼ぶのだ。

TOHOシネマズららぽーと横浜


 


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