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ペーパーボーイ/真夏の引力 ◆ The Paperboy [いんぷれっしょん]

Paperboy.jpg 関東以西の梅雨明けが7月第一週で、その後の猛暑と、戻り梅雨の蒸し暑さを繰り返して始まった2013年の夏。8月初頭の甲子園の開幕頃には、もう十分夏を体感している感覚である。そんな多湿日本の夏に届いたのが、アメリカ南部フロリダの暑苦しそうな沼地を舞台をに、爽やかイケメン半人前青年ひと夏の経験を描いたストーリー。主役を務めた正当派ハンサムボーイ、ザック・エフロンのはまり役「ハイスクールミュージカル」的甘酸っぱい青春ストーリーなどでは無く、チェリーボーイがどろどろぐちゃぐちゃの暴力とエロスにまみれて成長していくという、子供は見ちゃダメ!なキツイ作品だった。

 犯罪を取材する記者を、メインに据えたサスペンスとカテゴライズされるのかも知れないが、ストーリーは思ったよりずっとシンプル。警官殺しの服役囚を、ホワイト・トラッシュへの偏見による冤罪ではないかと疑った地元出身の記者が、取材を通じて真実に迫ろうというのがプロット。しかし、その課程で明らかになる登場人物達の持つ闇というか、本性というか、要するに尋常じゃない人間像があまりにも強烈で、ストーリーの胆であるはずの、真犯人捜しはどこいった~という印象。いえ、決して悪い意味ではありません。予想を覆される展開というのは、週一ウォッチャーとて、無上のヨロコビなのでございます。

 ご覧になった方々にはほぼ共通する感想をお持ちと思うが、主役を取り巻く役者達の役作りが何たってスゴイ。これまでのイメージをぶちこわす役に挑み、好演している主人公ジャック=ザック・エフロンが少し可愛そうになるくらいだ。その筆頭は、サイケなメイクに見事なブロンドヘアー+ウィッグ、フェロモン全開のイケイケミニスカワンピースを身に纏った「ビッチなバービー」シャーロット役ニコール・キッドマン。中身も外見と平行したキャラだから、保守的アメリカ人からは、後ろ指さされタイプの人物として描かれる。見事な役作りというか、もはや呆れるくらいの入魂レベルである。 続いて、警官殺しの犯人として、死刑判決を受け服役中のジョン・キューザック演ずるヒラリー。獄中文通によって、何故かシャーロットと婚約しているという難解な設定。あの風貌だから、見るからに悪党!という印象じゃなく、その素性は当初不明だが、釈放された中盤以以降に明らかになる暮らしぶりは、不気味でワイルド、怪しさ120%。抑圧された極貧困層の、劣等コンプレックスと歪んだ価値観に着火し、暴走する後半はかなり恐い。 そして、知的リベラルでジェントルな新聞記者、主役ジャックの実兄ウォードを演ずるのが、最近出演作品目白押しのマシュー・マコノヒー。最初の印象と、ストーリー半ばで明らかになる性向(クローゼットって言うのかな)とのギャップの大きさには、ただただ唖然とするばかり。ジャックくんも同じリアクションだったけど。 そして、 ウォードの同僚黒人記者のヤードリー。ジャックとウォード兄弟の実父で、地元誌社主のW.W.。幼くして母に捨てられたジャックには、家族同様の黒人メイドアニタなども、脇を固める配役としてぴりっと効いている。

  ビッチ・シャーロットの真骨頂、刑務所面会室でのヒラリーとのエアーファックや、ジャックにまたがり放尿するといった、ここまでやるか~という演出に応えた、オスカー女優のド根性に拍手を送りつつ、作品の本質を少しだけ考えてみるとする。それはストーリーの時代設定であるところの1970年前後、当時私たちが羨望の眼差しで見た、一般的に豊かなアメリカを象徴としているWASP層を描いたお気楽ファミリーTVドラマなどからは決して見えてこない、大国アメリカの影、特にマイノリティーに顕著と思われる極貧と無教養の共存及び連鎖。雑多な人種が混在する国で、絶対的に拭いえない偏見の存在だろう。その行き着く先が、薬物異存者や裏社会の構成員から犯罪者への転落というコースになりがちなのは、南部特有のまとわりついて離れない湿度と人を狂気に誘うような暑さのせいばかりでは無いのは明白だ。前作で、スラム黒人家族のDV、貧困、エイズ等悲劇のフルコースを取り上げたリー・ダニエルズ監督。社会の影を暴くような視点は、本作にも引き継がれているのだ。

 テーマや、かなりキツイ暴力と性の描写を考えたとき、メジャー系の劇場で多くを集客出来るかというと、やや「?」が付くような作品だとは思う。それを少ないとはいえ全国のシネコンが取り上げているのは、監督自身が語る「普通の映画と違って、私は大胆な配役をしたいんだ。イメージとは異なる、人々の予想を裏切るような配役をね」という言葉どおりのキャスティング、それに十二分に応えた役者たちの力量と話題によるところが大なのは間違いない。加えて、時代を反映している、赤っぽくざらつくような画面作り。頻繁に使われる、ジャックの妄想を映像化したような、ややサイケで現実離れしたな映像表現なども、作家のセンスとして是非注目すべきである。社会派としての視点、映像作家としての優れた表現、観客の予想を覆すキャスティングと演出などが、すべて高いレベル。猛暑に見舞われたこの夏に、大人が見るべき一本として大プッシュしたい。

 このように、申し分のないキャスティングおよび演出について、最後に少しだけ注文をつけるとすれば、劇中で、主要男性キャスト二人がケツを披露してくだ さっているが、どうせならもう少しサービス精神をふり絞ってもらい、ゴールデン・グローブ賞助演女優賞にノミネートされたという大物女優の熟れたおヒップ も、ちょこっとだけでも拝見できたら、更に高得点を差し上げられたのではと思うが、ダメだろうなぁ~?

2013/7/23 TOHOシネマズららぽーと横浜にて


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