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欲望のバージニア ◆ Lawless [いんぷれっしょん]

Lawless .jpg いわゆるハリウッド的シナリオというと、そのエッセンスにはいくつかのパターンがあると言われている。●典型的な悪役の存在 ●無敵ではない人間味のある主役 ●わかりやすいストーリーの流れ、といったところが主なものだろう。勧善懲悪のシンプルなストーリーに、ハラハラドキドキで味付けすると、一丁上がりというわけだ。加えて、予定調和のハッピーエンドに、恋愛テイストをちょっとふりかければ、ほぼ98%くらいの客に納得してもらえるエンタメ作品の完成と相成る。 

 この作品も、その王道から外れることなく、禁酒法時代を背景に上記のポイントをしっかり押えた作りになっていて、とても楽しめる。しかし、王道ながら若干過去の作品と違うのが、主役がバージニアの田舎で密造酒製造ビジネスを行う伝説の兄弟で、敵対するのが、そこに赴任してきた取り締まる側の官憲という構図。普通なら、法を守る正義の取締官をヒーローに据え、犯罪者をぎゃふんといわせるというのが多いはずだから、ちょっと異質。なぜこういった構図が成り立つかというと、禁酒法自体が悪法であり、運用にも非常に問題があったというのが、現代の一般的な評価だからだ。

 同じ時代を描いた過去作品というと、違法ビジネスによって暴利を得るギャングをモチーフにというパターンが一番なじみ深くて、それが、取り締まる官憲と戦いであったり、利潤をめぐる同業者同士の抗争であったり、ギャングの自伝的物語であったりするというのが多いようだ。それぞれのテーマ毎に、思い浮かぶ作品名がいくつかあるだろう。

 こうしたアンダーグラウンドでの利権争いや、抗争がなぜ起きるのか。市場に於いて高いニーズがあるにもかかわらず、法により規制されることで簡単に入手することが困難な状況を生み、流通価格の高騰を招き、そこに金の臭いをかぎつけたアウトサイダー達が付け入ることが主な原因なのは、経済の「いろは」から解ることだ。 リバタリアンによってしばしば主張される=麻薬の合法化=も根っこは同じで、薬物の中毒者が、天文学的に高騰する末端価格の違法薬物を入手するために、犯罪に手を染めることが直接的な悲劇に繋がっているというもの。また、ギャング・マフィア・ヤクザによって吸い上げられ、裏社会に隠された利益が、合法化により表に出て、税収の増加に寄与する可能性が高いという別の側面もある。

  本題に戻ろう。作品の大筋は冒頭に書いたとおり、実在したボンデュラント三兄弟をメインに据え、バージニアの片田舎で、一定の秩序の元、密造酒ビジネスを行うローカルコミュニティーが舞台だ。それは、取り締まる官憲をもシステムに組み込み、安定した収益源になっているところが、禁酒法がいかにザル法だったかというのを如実に語っている。 ところが、新たに着任した特別補佐官が強欲で、かつ非道な男。「おまえらだけ儲けさせないけんね。オレもたんまり分け前もらうけんね」というスタンス。大多数の村人達はこの男の理不尽な要求を渋々飲んだり、脅しや暴力に屈して、やがて言いなりになっていく。 しかし、主人公のボンデュラント三兄弟の次男フォレストは、やたらに気骨のある男で、こういった輩の脅しには絶対屈しないという態度だから、泥沼の争いに突入してしまうのだ。

 このフォレストを演じたのは、ダークナイトライジングで顔のない悪役ベインのトム・ハーディ。ジェイソン・クラーク演ずる長兄ハワードが、年長なのにもしかしたら少し脳みそ薄いのか、専ら肉体労働担当なところは、昭和の人気芸人コンビお染ブラザーズとは役割が逆だ。ベインは随分でかい男だと思ったが、ハワードはフォレストより一回りでかいから、相当な巨体だな。主役の三男坊、シャイア・ラブーフが小柄で、まるでお子ちゃまなところが、ナイス役割分担というキャスティング。この人は、どこかおどおどした役柄がひじょーに似合っているなぁ。役者の配置という点では、何と言っても悪役(取締官だけど)の、ガイ・ピアースの役作りがお見事。個性派俳優と認識されていると思うが、今回は特に突き抜けていますよ。

  そして、紅二点のジェシカ・チャステインとミア・ワシコウスカが男達の抗争劇に花を添えている。どっちに萌えるかは見る方次第。ちなみにわたくしは、ゼロ・ダークサーティで一躍時の女優となったジェシカ・チャステインが、強面だが女にはめっぽうオクテのフォレストに業を煮やし、ある夜ついにその柔肌で迫るという色っぽいシークエンスは「たまらん!」と申し上げたい。

 ストーリーの後半、三男ジャックの相棒クリケットが殺されてからは、ひたすら三兄弟対補佐官レイクスの復讐&抗争劇となる。こちらも王道を踏んでいると思うので、もしかしたら、かつての東映任侠路線がお好きな方々には、かなり支持率が高いのじゃなかろうかと思う。ドンパチをメインに、かなり血なまぐさくてグロいシーンも多いところは、銃規制の論議が出ては立ち消えるアメリカの現状が、こうした出来事の積み重ねで出来上がっているんだなどと、再認識してみたりもする訳ですね。

2013/7/11 横浜ブルグ13にて

ジョン・ヒルコート監督作品&ジェシカ・チャステイン出演作

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