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プロメテウス ◆ Prometheus [いんぷれっしょん]

プロメテウス.jpeg  鳴り物入りで公開された巨匠リドリー・スコットの「プロメテウス」が、意外に評判が良く無い。 曰く「前期待が大きすぎてしまったのでちょっと・・」 曰く 「まとまりなく、テーマがよく解らない。」、曰く「はらはら感少なし。」「リアリティやストーリーの必然性に難あり。」等々。 でも、あの歴史に残るSFの名作を世に送り出した監督が、そのような一言で一蹴される薄っぺらいものを作るのだろうかという疑問をぬぐい去れず、本質や裏側を読み解く手がかりを探してみた。

 タイトルに使われているプロメテウスとはギリシャ神話に登場する神。人間に火を与えた罰として、生きながらにはらわたをハゲタカについばまれる責め苦を追う。不死身の身だからその苦しみは永遠に続くというキツイお話。好奇心や権力者の意図に沿わない行為の代償は時に重いという教訓か?

テーマその1 エイリアンのプリークェルなのか? やや疑問は残るがほぼ間違いないだろう。最後に「エンジニア」の胸をブチ破ってから出て来たヤツは、紛れもないエイリアンのプロトタイプだ。それがいつ体内に侵入したかははっきり描かれていないが、ショウの体内から手術で取り出された後成長し、直前に襲ってきたそれまでのイカ型とは形状が明らかに違い、私達が知っているあの形にほぼ近い。劇中、元々生物兵器として生み出されたとのではいう仮説も、説得力はありそうだ。しかし、オリジナルエイリアンでノストロモ号が最初に遭遇した惑星はLV-426だから、今回の舞台惑星とは違う。変異したエイリアンがどのように増殖していって拡散していったのかなど、その辺の説明や整合性は次作以降に持ち越された形だ。

テーマその2 人類の創造主はエンジニアなのか? いろいろな資料から推理すると、監督の意図がおぼろげに見えてくる。
●スコット監督は、エーリッヒ・フォン・デニケンの「古代宇宙飛行士説」から影響を受けたことを認めている。 およそ科学的とは言い難い説だが、SFのモチーフとしては面白く昔から頻繁に取り上げられている。冒頭、原始の地球のような惑星で、人間型宇宙人が黒い液体を飲むとその体が変異し、ばらばらになったDNAが飛び散る・・・というシークエンスは、この説をベースにしているのだろう。男(多分)がひとりそのような行為に及んだ必然性や、これが人類誕生の引き金になったのかということに明確な言及はないが、私達の常識となっている進化論を否定し、何者かの意思によって人類の起源が形作られたということを表している。だとすればこんな仮説も成り立つ。その男は何かの罪人で、罰として自らの肉体を破壊させられた。そして、その罪人(悪人)の遺伝子を引き継ぐ人類は、残忍さや利己主義を持って誕生しているから、常に争いをやめられない宿命にある・・。
●プロメテウス号が目指した惑星LVー233=旧約聖書レビ記第22章 Leviticus 22:3 から引用しているらしい。そこの記述は「彼らに言いなさい、『あなたがたの代々の子孫のうち、だれでも、イスラエルの人々が主にささげる聖なる物に、汚れた身をもって近づく者があれば、その人はわたしの前から断たれるであろう。わたしは主である。」本作のテーマに沿った内容ではなかろうか。
●エンジニアが人類誕生の起源に関わっているとすれば、聖書の記述との整合性はという疑問も湧いてくるが、そのあたりは、コンサバティブな西洋人にとっては少なくとも進化論よりは受け入れられやすい概念なんだろう。

このように見てみると、キリスト教的考え方にある背景が色濃く、日本人には馴染みにくいから、テーマが解りにくいとか、理解しがたいとかいった感想を持つのもあながち的外れとは言えないかも知れない。しかし、進化論を信じる米国人はわずかかしかおらず、半数近くの米国人が、人類は神が創造したと信じているという報告などを見ると、この理屈は説得力を持つ。 スコット監督の母国英国や、活動の拠点米国は、日本人の私達が思う以上に伝統的な価値観を重んじてきた国だ。だからこそ宗教の持つ意味も大きく、そこへの回帰を意図して本作が作られたとすれば、その背景に横たわる伝統に根ざした旧い価値観の崩壊、泥沼化する文明の対立が呼び起こす無力感などからの脱却を望むという意図があるのかもしれない。

テーマその3 それにしても残る疑問 古代の遺跡から発見された星座のような壁画を、ショウとホロウェイはなぜ招待状と思ったのか?そして、それを人類の起源を解き明かす鍵と思った根拠は?アンドロイドデイヴィッドが、謎の液体をホロウェイに飲ませた理由。焼き殺されたホロウェイがゾンビのごとく復活した理由。イカ型エイリアンとの関係。エンジニア達が地球を滅ぼそうとしている理由。船長と副操縦士が、突然人類愛に奮い立ち、自らの命を賭してカミカゼ攻撃を仕掛けた必然性への言及。オリジナルエイリアンで登場した「スペース・ジョッキー」の化石は、エンジニア達と同じ種なのか?

  こうした疑問点の多くが、私達の作品への評価を下げている大きな理由の一つだろう。想像力を喚起する疑問というより、投げ出しっぱなしの曖昧さとも取れるから、全体としてテーマがぼやけていると思われるのはうなずける。人類起源という大きなテーマをと大上段に構えている割には、パニック映画のようでもあるし、そのサスペンス度はエイリアンほどではない。さすがの巨匠も焼きが回ったかと思われても致し方ないところか。しかし、ストーリーや映像表現、登場人物などは既視感があり、未知の体験や体験に興奮するんだというというような期待には答えてくれないが、もう少し引いて、次作に見えてくるであろう新たな何かに期待するとすれば、十分に満足感が得られるだろうと思うがいかがだろう。少なくとも私は、ショウとデイヴィッドが行き着く次の目的地を見てみたいと強い期待感を持った。 

2012/9/22 109シネマズグランベリーモールにて


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つむじかぜ

映像に対する強い拘りは感じましたが、ストーリー自体は納得に足るもので無かった気がしますね。
次回作に期待です。
by つむじかぜ (2012-10-04 02:11) 

たんたんたぬき

つむじかぜさん、コメントありがとうございます。SFファンとしては100点満点は差し上げられない出来とは思いますね。私も次作に期待してます。
by たんたんたぬき (2012-10-04 18:41) 

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