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おとなのけんか ◆ Carnage [いんぷれっしょん]

おとなのけんか.jpg女A、著作経験のある文化系人権主義者 、芸術などへの感心も高く、家庭を大事にするナチュラル指向。 男A、女Aの夫、金物を扱う個人商店のオーナー、フランクでおおらか、ややいい加減な典型的20世紀タイプのアメリカ男子。多分ニューヨークジェッツかヤンキースが三度の飯よりスキ。女B,投資ブローカー、クールで知性と常識を備えたキャリア女性、子育てや家事に忙殺され仕事に打ち込めないことへのフラストレーションを抱える。男B、女Bの夫、企業弁護士、仕事柄当然合理主義者、目線が高いのは生まれつきの性分か職業がそうさせるのか、デリカシーにやや欠け皮肉屋の一面も。
注)人物像描写は筆者の主観による

 上映時間80分弱という短い作品に登場するのは、ほぼこの男女4名のみ。シチュエーションも男女Aの住むアパートメントとその玄関先だけという、限定された空間。 これはどう見ても舞台劇だなと思っていたら、やはりフランスの女性作家ヤスミナ・レザと言う人の戯曲『大人は、かく戦えり』を映画化したものだとのこと。

 子供同士のケンカに収拾をつけるために集まった4人の親たちが、良識ある大人として冷静に話し合って円満解決を目指したはずが、何時のまにやら口論が始まり気がつけば激烈バトルに突入していくというお話。女Aペネロピ・ロングストリーを演じるのが ジョディ・フォスター、その夫マイケルがジョン・C・ライリー。女Aナンシー・カウワンを演じるのがケイト・ウィンスレット、その夫弁護士アランがクリストフ・ヴァルツ。チラシの組み合わせ通り、絵柄もシンプル。

発端は11歳の同級生同士が起こした子供のケンカなのだが、加害者と被害者という構図があるから話がややこしくなる。加害者側がB夫婦、被害者側がA夫婦、さらに面倒くさい方向に進む原因は、冒頭に書いたとおり社会的ステータスはどうやら加害者Aファミリーのほうが高そうで、被害者である庶民クラスの家族としては、賠償してもらえばいいってもんじゃないでしょ?という気持ちがあるから一筋縄でいかなくなる。互いの家族に対する不信感を背景に、ちょっとした会話の端々からカチンと来るのが積み重なり、口論に火が付いてしまうのだ。

オリジナルが舞台劇というだけあって、お話はタイムラインに沿って進むので、それぞれの心情が変化するのをリアルタイムに観察していくことになる。曲折が深まるタイミングがいくつか用意されていて、例えばマイケルが子供の飼っていたハムスターを捨てる話だとか、会話の最中アランのブラックベリーに掛かってくる、いかにもぶしつけ唐突な訴訟がらみの電話だとかがきっかけになり、あららそりゃまずいでしょ・・と思う間もなく、他の面子(特にレディーのお二人)のこめかみにぴくっと青筋が立つのが手に取るように解るから、外野としてはおかしさが余計につのる。

後半は酒の勢いも加わって、四人の怒りの対象が次第に本筋からずれて来る。図らずもそれぞれ夫婦間の不満が爆発したり、男女の価値観差から生ずる諍いにすり替わったりすることで、男同士女同士が妙なシンパシーを抱いたりと、対立の相関図にも変化が出てくるあたりのはちゃめちゃさ加減はとても笑える。理性の箍(たが)が外れると、大人といえども大人げない態度になるとはこういうことですよ。今は誰と誰が味方なんろうなどと、その都度セリフから読み取る確認作業にも忙しくなる。

いったいどこで落すのだろうといささか心配になってくる頃、あたかもバトル終了ゴングのように鳴り響く着信音、きちんと飲み込める結末が用意され、脚本のセンスの良さに舌を巻いていると、エンドロールでもっとシニカルな答えを見せて来るから作り手も人が悪い。

ちょっとだけ難を申せば、イマドキのアメリカ人同士の口げんかだったら、多分お互いに言いたいことを止めどなく言い合って、相手のセリフには耳を貸さないという演出が普通だと思うが、今作は舞台風を貫くことで、誰かの長ゼリフの間、他の三人が手持ちぶさたで控えている・・というシーンが目立った。リアリズムとは一線を画すということかも知れないが、普段演劇に馴染まない者には、やや違和感として写ってしまったのが残念。

そうはいっても、画面に登場しない人物像を想像させる脚本や、議論から口論、次第にバトルにエスカレートするテンポの良さ、膨大なセリフ量で組まれた会話劇の楽しさは字幕からも十分味わえたし、何と言っても役者達が素晴らしい。特に苛つき演技には定評のある女優二人、涙を浮かべて悔しさを絞り出すようなフォスターのセリフ、たまりに溜まった不満を一気に吐き出すがごとく、映画史上に残ると思われる見事なゲロを吐いたウィンスレットには何かの映画賞を差し上げたい。それにしても惜しむらくは、我が身が米語を操れないこと。ネイティブでセリフが解る方にはもっと楽しめただろうと思うと、今までの不勉強を呪うばかり。

Carnage=[名][U]1 大量殺りく, 大虐殺 a scene of carnage(戦場などの)修羅(しゅら)場

 2012/03/8 TOHOシネマズららぽーと横浜


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有名作品多数ポランスキー監督作品群 



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