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MAD探偵7人の容疑者 ◆ MAD DETECTIVE [いんぷれっしょん]

MAD.jpgジョニー・トーが好きだ。正確にはジョニー・トーが描く香港ノワール、男臭く肌がちりちりするような映像感覚が好きだ。独特の色使い、セルフ回しの間、張り詰めた場面に唐突に挿入される笑い、どれもが自分のツボにはまる。そんなお好み監督から届いた新作は、前作より3年前に作られたワイ・カーファイとの共作だった。

「MAD探偵」ぶっ飛んだ破天荒なヤツの比喩として使われることの多い「MAD」、しかし今作の主人公バン元刑事(ラウ・チンワン)は、本物の狂気として描かれるのだ。「プロファイリング」という言葉をご存じだろうか? 犯罪捜査において、犯人の心理分析を行うことで人物像に迫ろうという手法だ。それを担うのが「プロファイラー」心理分析官だ。主人公バン元刑事は本物のプロファーラーなのだ。本物とはどういう意味か、普通この作業は、担当官の経験や科学的なアプローチで行われるが、彼は身についた特殊な能力で、事件現場を自分自身でなぞり体現することで、状況を理解できるのだ。こうして犯人のイメージが解るのだという。そしてもう一つの特殊能力。彼には人が持つ多面性、別人格をリアルな映像として認識できるのだ。 以前にコミック本で「ホムンクルス」という作品を目にしたことがある。そこに登場する主人公は、人の深層心理を異形として捉える能力者だが、重なるのではとの印象を持った。

長い説明を書いたのには理由がある。作品冒頭、バンの常軌を逸した行動、例えばボストンバッグに自ら入り、階段から転げ落ちる。つるされた豚に向かってナイフを突き立て挌闘する。 極めつけは上司の退官に際し、自分の耳を切り取って贈り物とする・・などなど意味不明の行動がこれでもかと描かれる。これらは彼独特のプロファイリング行動や、人格を見抜く能力描写なのだが、予告や予備知識を入れずに見る自分には、彼のキャラクターや位置、能力を理解するのに前半1/4程を要した。それほどMADなのである。

 脚本には アウ・キンイー ワイ・カーファイと二人がクレジットされている。こういう特殊な能力者持った人物を主人公に据えたことでストーリーのおもしろさは大半成功しているといえるかもしれないが、映像化においてはジョニー・トーの実力が遺憾なく発揮されている。ストーリーにおけるもう片方の主役、犯人であるコウ刑事、彼にはなんと7人の別人格が宿っていろのだ。作品のサブタイトル「7人の容疑者」の由来だが、それをバンの目線で見せるシークエンスはどれもかなり笑える。しかしそこはトー監督のこと、誘われる笑いにはどこかクールさの漂うところがさすがだ。レストランのトイレで二人が交わすやりとりのシーンにはそのあたりが凝縮されている見所だ。

ストーリーの進行と共に次第に明かされるバン元刑事の身の上。 好人物として描かれていたはずの若手刑事ホーの意外な別人格。バンが闇夜に妻とタンデムで激走するバイクシーン。事件解決になだれ込む終盤の緊張感など、ニヒルでシニカルいつものトーワールドが遺憾なく発揮されたナイスエンタテインメントだ。出来ればやや黄昏れた場末の劇場でご覧になると怪しい世界をますます堪能出来ると思うが・・・。

横浜 シネマジャック&ベティにて


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