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ブラック・スワン ◆ Black Swan [いんぷれっしょん]

blackswan.jpg 劇場で映画を見ると、本編の上映前に予告編を必ず見せられる。見せられる・・と書いたのは、予告編に興味を引かれて鑑賞決定して満足したことが非常に少ないからだ。だから基本的に予告編が終わるころを見計らって劇場入りするか、内容を想像せずぼんやり見るようにしている。そんなスタンスの私が、この作品も同じように2ヵ月ほど前の予告で知った。 そのときの印象は、あぁ白鳥の湖の主役を巡る女の戦いね・・といった少女漫画的なストーリーを勝手に抱き、ノーマークを決めていた。

しかしその後少しずつ噂が耳に入り、監督が「レスラー」のダーレン・アロノフスキーであること、自分が抱いていた漫画チックな設定ではなくもう少し内省的な重いテーマだと言うことが解り、急遽鑑賞決定したという次第だ。前置きが長くなった。

主役のナタリー・ポートマンは、少女の頃からスクリーンで活躍し、既に高い評価を獲得している女優だが、主役の座を射止めようとするバレリーナというストイックな役柄に挑むことになり、幼少期に学んでいた経験と、更に今回1年に及ぶレッスンの後、身体ごと作り替えて望んだのだという。バレエに造詣が深いわけではないが、確かにそのダンスレッスンシーンは見るものを圧倒する。 役者魂の片鱗を見た。

作品のテーマなっている「白鳥の湖」は、一人のバレリーナが、無垢な白鳥  オデットと、悪魔の子黒鳥オディールという正反対の役を一人で演じ分けるというのが肝だ。ポートマンが演じる主人公ニナは、バレリーナとしての成功を夢見る母子家庭で無菌培養されたようなバレエ一筋の生活を送っている。 バレリーナとして十分な力量を持ちながら、あまりに純粋で、ナイーブなるがゆえ、魔性の黒鳥を演ずるに不向きと判断されることから悲劇が始まる。 

一度は主役の座を明け渡したかに見えたニナだが、一転みごと主役に抜擢される。そして、それまで長くプリマの座に君臨した老バレリーナとの諍い、舞台監督との師弟を超えた関わりなどを経ながら、やがて心を病んで行く。同僚でニナとは正反対のキャラクターを持つリリーはブラック・スワンにうってつけのバレリーナだ。監督が彼女を不慮に備えた代役に立てたこともニナの心の闇に拍車をかける。

 だが、忘れてはならないのが母親の存在だ。ニナの抑圧的で少女のように潔癖な心理は母からの呪縛によるものだ。娘を溺愛し、自分の果たせなかった夢を託すためすべてを捧げる自己犠牲の上に立った献身。 母親の希望を自分のそれと同化させることで結果として母親に支配されていることがニナの苦悩に繋がってくるのだ。それは、ニナが無意識に自信の肌を傷つけたことに気づくシークエンスにでも度々表現されている。心理学についての素養がないので、このような母子の関係をうまく説明できないが、プリマとしてダークな黒鳥を自分のものにするための行為が、母が望まない自立に繋がるというジレンマであり、母子の諍い繋がってくるのだ。

心を病んだニナが体験する事実と、彼女が見る幻覚や妄想イメージの世界を同じ時間軸上で重ねながら見せるテクニックが凄い。潔癖さを責められたゆえの薬物への逃避やセクシャルな妄想、母親エリカが描く絵がやがてムンクのそれに見えてきたり、自分の肌から黒い羽毛が生えてくる幻覚など次々に不安感を煽る演出は観客の想像力を掻き立て、ニナの心の動揺を見せつけてくる。手持ちカメラのぶれた映像も効果的だ。

 ついに公演初日を迎え、制止する母を振り切り心を病んだまま舞台に立ったニナはどのように白鳥オデットと黒鳥オディールを演じ別けるのか。驚きのエンディングに続く舞台裏での葛藤、息もできないような緊迫感が最後まで持続する作品だ。サイコスリラーと分類分けされる作品は多いが、その中でも本作は説得力のある作り込みがされていると思う。良い音響の暗闇で鑑賞することで、作り手の意図が100%伝わるだろう。是非劇場でご覧になることをオススメする。 

2011/05/26 MOVIX橋本にて


ダーレン・アロノフスキー監督作品

 

レクイエム・フォー・ドリーム デラックス版 [DVD]

ファウンテン 永遠につづく愛 [DVD] レスラー スペシャル・エディション [DVD]


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